宅地建物取引業保証協会の制度と役割
宅建業者の皆さまのうちほとんどの方が、「宅地建物取引業保証協会」に加入されていると思います。また、これから宅建業を始めようとされている方も、「宅地建物取引業保証協会」について、お聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回から3回にわたり、「宅地建物取引業保証協会」がどのような団体で、どのような役割を担っているかをご説明します。
目次
1 宅地建物取引業保証協会とは?
1.1 宅地建物取引業保証協会が設立された理由
宅地建物取引業保証協会は、国土交通大臣の指定を受けて設立された法人です(宅建業法64条の2)
宅地建物取引業保証協会が設立されるまで、宅地建物取引業者がその免許を受けるためには、多額の「営業保証金」を法務局に供託することが必要とされていました。
「営業保証金」の供託が必要とされている理由は、宅建業取引において、取引金額が高額になる場合が多く、取引の相手方が被る損害額も高額になることが多いため、一定の資力がある事業者のみに免許を与えることで、資力のない事業者が宅建業取引に関与することを防止することにあります。また、実際に不測の損害を被った取引の相手方には、営業保証金から確実に弁済を受けられるようにすることで、取引の安全を確保しようという目的もあります。
もっとも、この営業保証金の供託が、事業者にとって経済的な負担となり、宅地建物取引業を開業するにあたっての足かせとなっていました。そこで、宅地建物取引業保証協会という制度が作られました。
宅地建物取引業者が、宅地建物取引業保証協会に加入して、「弁済業務保証金分担金」を納付すれば、「営業保証金」の供託はしなくてもよいという扱いがなされています。
この「弁済業務保証金分担金」は、「営業保証金」に比べ、とても少ない金額ですみます(詳細は、以下の「2 宅地建物取引保証協会に加入するメリット」をご覧ください。)。
また、宅地建物取引業保証協会は、実際に不測の損害を被った取引の相手方に対して、会員である事業者に代わって弁済するという業務を行っています(詳細は、「宅地建物取引業保証協会の「苦情解決業務」と「弁済業務」」についての記事をご覧ください。)。これにより、宅地建物取引の安全も図られています。つまり、宅地建物取引業保証協会は、宅地建物取引業者の経済的な負担軽減と、消費者の保護を目的として設立された団体です。
1.2 実際の宅地建物取引業保証協会は2種類
現在、宅地建物取引業保証協会には、以下の2つがあります。
・公益社団法人不動産保証協会
会員数は、公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会が約10万社(平成23年3月末日現在)、公益社団法人不動産保証協会が約3万社(平成28年6月現在)です。
加入することができるのはこれらのうち1つのみで、両方に加入することはできません(宅建業法64条の4第1項)。
2 宅地建物取引保証協会に加入するメリット
宅地建物取引業保証協会に加入する最大のメリットは、何といっても、「営業保証金」の供託をしなくてもよくなるということです。
宅地建物取引業を行う事業者は、主たる事業所(本店)について1000万円、支店1か所ごとに500万円の営業保証金を、法務局に供託しなければなりません(宅建業法25条2項、宅建業法施行令2条の4)。つまり、本店のみで開業しようとした場合でも1000万円、本店に加え、支店1か所で開業しようとした場合には、合計1500万円もの営業保証金を供託することになります。
しかし、開業の時点で、このような大金を供託することは事業者にとって、大きな負担であり、事実上、参入がかなり難しくなります。
宅地建物取引業保証協会に加入し、「弁済業務保証金分担金」を納付することで、営業保証金の供託義務を免れることができます。
「弁済業務保証金分担金」の金額は、主たる事業所について60万円、支店1か所ごとに30万円で、「営業保証金」に比べ、大幅に金銭的な負担が軽減されています。
開業時に多額の「営業保証金」を供託することはなかなか難しいと思いますので、宅地建物取引業保証協会に加入することで「営業保証金」の供託を免れることができるというのは、最大のメリットだと言えます。
なお、宅地建物取引業保証協会に加入するためには、他の関連団体への加入が条件とされており、「弁済業務保証金分担金」以外にも、入会金等が必要になりますのでご注意ください。
それらを合わせても、「営業保証金」より大幅に減額されているため、宅地建物取引業保証協会に加入する金銭的なメリットは非常に大きいです。
3 宅地建物取引保証協会が行う業務の概要
宅地建物取引業保証協会は、宅建業法64条の3第1項により、以下の業務を行うことが義務づけられています。
①苦情解決業務(1号)
宅地建物取引業保証協会の会員である宅地建物取引業者が行った宅地建物取引の相手方から、業務に関する苦情の申出があった場合に、その苦情を解決する業務です。
②研修業務(2号)
宅地建物取引士その他宅地建物取引業を行っている者、もしくは、行おうとしている者に対して研修を実施する業務です。
③弁済業務(3号)
宅地建物取引業保証協会の会員である宅地建物取引業者が行った宅地建物取引の相手方が、「取引に関する債権」を有している場合に、宅地建物取引業保証協会がその債権の弁済を行う業務です。
※①・③の詳細については、宅地建物取引業保証協会の「苦情解決業務」と「弁済業務」に関する記事をご覧ください。
また、宅地建物取引業保証協会は、宅建業法64条の3第2項に基づく任意業務として、以下の業務を実施しています。
④手付金等保管業務
宅地建物取引業者に義務づけられている手付金等の保全措置として、宅地建物取引業保証協会が宅地建物取引業者に代わって手付金を受領し、保管する業務です。
⑤一般保証業務
会員である宅地建物取引業者が行った宅地建物取引に関する支払金や預り金の返還債務などを保証する業務です。
※④・⑤の詳細については、宅地建物取引業保証協会の「手付金等保管制度」と「一般保証業務」についての記事をご覧ください。
4 まとめ
開業にあたって、「1000万円もの営業保証金は払えない」とか、「少しでも開業資金を減らして、その分を営業資金に回したい」という場合には、宅地建物取引業保証協会に加入して、営業保証金の供託を免除してもらうのがおすすめです。