宅地建物取引業保証協会の「手付金等保管制度」と「一般保証業務」
前回の「手付金等保管制度」と「一般保証業務」に関する記事に引き続き「宅地建物取引業保証協会」が行っている主な業務をご紹介していきます。
今回は、「手付金等保管制度」と「一般保証業務」です。これらは、宅建業法64条の3第2項により、宅地建物取引業保証協会が行うことができる任意的業務として定められている業務です。
目次
1 手付金等保管制度
1.1 制度の概要
宅地建物取引業保証協会の会員である宅建業者が売主となり、一般消費者(宅建業者以外の者)が買主となる完成物件の売買において、売主が買主から受け取る手付金を、宅地建物取引業保証協会が預り、取引の終了までの間、売主の代わりに保管するという制度です。
1.2 宅建業者による手付金等の保全義務
宅地建物取引業者が売主となり、一般消費者に完成物件を売り渡す場合、売買代金の10パーセント、もしくは、1000万円を超える手付金等を受け取ろうとする場合、売主である宅建業者は、手付金等の保全措置をとらなければなりません(宅建業法41条の2第1項、宅建業法施行令3条の3)。
「手付金等」とは、申込証拠金、契約金、手付金、中間金など、その名称にかかわらず、売買代金に充当されるものをいいます。ですので、取引の完了までの間に、売買代金に充当する目的で受け取った金銭であれば、「手付金等」として、保全措置の対象になります。
手付金等の保全措置の具体的な方法としては、
②保険会社による保証保険
③指定保管機関による保管
の3種類があります。
売主である宅建業者は、①~③のいずれかの方法により、手付金等の保全措置をとらなければなりません。
そして、保証協会が行っている手付金等保管制度は、③にあたり、宅建業者は、これを利用することで、保全措置を行ったことになります。
なお、宅建業者が保全措置をとらない場合には、買主は、手付金を支払わないことができるものとされています(宅建業法41条の2第5項)。この場合、手付金の支払期限がすぎても、買主は債務不履行により契約を解除されたり、違約金を支払ったりする必要はありません。
1.3 手付金等保管制度の対象となる取引
手付金保管制度の対象となる取引は以下の場合に限られます。
②買主が一般消費者(宅建業者以外の者)
③完成物件の売買契約
④手付金等の合計金額が売買代金の10パーセントを超える場合、または、1000万円を超える
場合です。
1.4 手付金等保管制度の仕組み
まず、売主である宅建業者が、買主から受け取る手付金等について、宅地建物取引業保証協会に寄託する旨の契約をした上で、このような契約をしたことを証する書面を、宅建業者が買主に交付します(宅建業法41条の2第1項1号)。また、売主である宅建業者は、買主との間で、売主が宅地建物取引業保証協会に預ける手付金の返還請求権について、質権を設定する契約をしておかなければなりません(宅建業法41条の2第1項2号)。そして、宅建業者は、この質権を設定したことについて、確定日付のある証書(民法467条)をもって、宅地建物取引業保証協会に通知することが必要です(宅建業法41条の2第1項2号)。その後、買主が宅地建物取引業保証協会に対し、売主である宅建業者に支払うべき金額の手付金等を支払い、宅地建物取引業保証協会は、売主である宅建業者に代理してこれを受領し、保管します。
保管期間は、少なくとも、宅地建物取引業保証協会が手付金等を受領したときから物件の引渡しがなされるまでとされる必要があります(宅建業法41条の2第2項2号)。
実際の運用では、物件の引渡しに加え、物件の所有権移転・保存登記に必要な書類が売主から買主に交付されるまでとされているようです。
売主である宅建業者は、物件の引渡しと所有権移転登記の完了(必要書類の売主への交付)後に、宅地建物取引業保証協会に対して、預けていた手付金の返還を求めることができます。
万が一、取引が完了するまでに、売買契約の解除などにより買主に手付金を返還すべき事情が生じたのに、売主である宅建業者が手付金を返還しない場合には、買主は、売主が宅地建物取引業保証協会に預けた手付金の返還請求権に設定した質権を実行して、宅地建物取引業保証協会から、手付金を取り戻すことができます。
このようにして、取引完了までの間、買主への手付金の返還が保証されることになります。
2 公益社団法人不動産保証協会が行う一般保証業務
2.1 制度の概要
上記のとおり、完成物件の売買について、手付金の金額が、売買代金の10パーセントを超える場合、または、1000万円を超える場合には、宅建業者には、手付金の保全義務があります。しかし、これに満たない金額の場合は保全義務がなく、上記の手付金等保管制度の対象にもなりません。
そこで、このような比較的少額な手付金等の返還を保証するために設けられた制度です。
現在2つある「宅地建物取引業保証協会」のうち、「公益社団法人不動産保証協会」において行われています。
2.2 保証の対象
本制度を利用できる人は、公益社団法人不動産保証協会に所属している宅建業者と宅地建物取引をした一般消費者に限られます。
公益社団法人不動産保証協会が行う保証制度ですので、取引の相手の宅建業者が当該協会に所属していない場合には利用できません。また、一般消費者を保護するための制度ですので、宅建業者同士の取引には利用できません。
保証される金銭は、売買の際に業者に支払う手付金や中間金、媒介の際に業者に支払う媒介報酬(ただし、報酬総額の半額まで)などです。
2.3 制度利用の流れ
本制度を利用するには、まずは、取引を行う宅建業者が、公益社団法人不動産保証協会との間で、個々の取引について保証委託契約を結ぶことが必要です。保証委託契約を結んでいない取引については、保証の対象にはなりませんのでご注意ください。
保証を受けたい一般消費者は、取引を行う宅建業者に保証委託契約の申込みをしてもらう必要があるということです。保証委託契約の審査が通れば、保証証書が発行され、一般消費者に交付されます。取引が完了するまでの期間、公益社団法人不動産保証協会が、宅建業者が一般消費者に対して負うことになる手付金等の返還債務を保証してくれて、取引が解約などにより終了した場合や、宅建業者が倒産などにより返還ができなくなった場合には、保証協会が返還してくれます。