宅地建物取引士とは?
平成26年の宅地建物取引業法改正により、平成27年4月1日から「宅地建物取引主任者」が「宅地建物取引士」という名前に変わりました。それに伴って、「宅地建物取引士」には、「宅地建物取引主任者」より求められる義務の内容も重くなっています。
今回は、「宅地建物取引士」について、説明したいと思います。
1 宅地建物取引士制度の概要
不動産の取引を行うためには、不動産そのものに関する知識のほか、不動産に関する法律上の知識、不動産の評価に関する知識など、専門的で幅広い知識が必要となります。しかし、一般の人は、このような専門的な知識を持ち合わせておらず、後で、トラブルになることも多いため、不動産に関する専門的な知識を持った人に、取引に関わってもらう必要があります。
そこで、「宅地建物取引士」という資格が作られました。
宅建取引業者は、事務所の規模に応じて、一定の数の宅地建物取引士を置かなければならないこととされており、宅建業取引の中でも、一定の重要な業務については、宅地建物取引士しか行うことができないとされています。
2 宅建取引業者が置かなければならない専任の宅地建物取引士の人数
宅建取引業者は、その事務所ごとに、宅建業取引の業務に従事する者5人に対して、1人以上の割合で、専任の宅地建物取引士を置かなければなりません(宅建業法31条の3第1項、宅建業法施行規則15条の5の3)。
「専任」の宅地建物取引士とは、営業時間中は、常にその事務所に勤務し、その勤務時間のほとんどの間、宅建業取引の業務を行っていることが必要です。他の事務所等の業務とかけ持ちしている場合や、他の職業があり、通常の営業時間に事務所に勤務することができない状態にある場合は、「専任」とはいえません。
「宅建業取引の業務に従事する者」とは、直接営業にかかわる従業員だけでなく、宅建取引業にかかわる一般管理部門の従業員や補助的な事務を行う者(営業事務や経理など)も含まれ、正社員だけでなく、アルバイトも含みます。ですので、事務所で働いている従業員がまったく宅建業取引に関わっていない場合を除けば、全員が「宅建業取引に従事する者」にあたると考えていただいた方がよいでしょう。
たとえば、宅建取引業者が、本店において13人、支店において5人の従業員を使用している場合、本店の従業員のうち3人以上、支店の従業員のうち1人以上が、宅地建物取引士でなければならないという計算になります。
3 宅地建物取引士のみが行える業務
3.1 重要事項の説明
宅建取引業者が宅建業取引を行う場合、取引の相手に対して、取引をする物件や、その取引の内容などの一定の重要なものについて、説明をしなければなりません(宅建業法35条1項から3項)。取引の相手が、取引をするかどうかを決めるための情報を十分に提供し、取引の内容をしっかりと理解した上で契約をしてもらうことで、トラブルを防止するためです。
この説明を行う業務は、宅地建物取引士にしかできません。
3.2 重要事項説明書への記名・捺印
また、宅建取引業者は、上記の説明をすべき重要事項を書いた書面を、取引の相手に渡さなければなりません。その重要事項説明書には、宅地建物取引士が記名し、捺印をすることが必要です(宅建業法35条5項)。
3.3 契約書への記名・捺印
宅建取引業者が宅建業取引を行う場合、契約の相手方などに対して、行った取引に関する契約書を渡さなければならないものとされています(宅建業法37条1項、2項)。この契約書にも、宅地建物取引士が記名し、捺印しなければなりません(宅建業法37条3項)。
4 宅地建物取引士が負う義務
平成26年の法改正により「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」に名前が変わったことに伴って、新たに、「宅地建物取引士」に以下の努力義務が課せられました。
4.1 宅地建物取引士の業務処理の原則
宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、適切な助言や重要事項の説明などを行い、お客さんが安心して取引を行うことができるようにしなければなりません。
そのため、常に公正な立場から業務に誠実に従事することで、トラブルを防止するとともに、宅地建物取引士が中心となって、リフォーム会社、瑕疵保険会社、金融機関等の宅地建物取引業に関連する業務を行う者と連携を図り、宅地建物の円滑な取引が実現するよう努めなければなりません(宅建業法15条)。
4.2 信用失墜行為の禁止
宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、専門的知識をもって重要事項の説明等を行う責任があり、その業務は、取引する相手だけではなく、社会からも信頼されています。
そこで、宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用または品位を害するような行為を行ってはならないものとされています(宅建業法15条の2)。
この「信用または品位を害するような行為」とは、職務として行われるものに限られず、職務に必ずしも直接関係しない行為や、私的な行為も含まれます。
4.3 知識および能力の維持・向上
宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、常に最新の法律をしっかりと把握し、これに合わせて実務能力を磨くとともに、知識を更新するよう努めなければなりません(宅建業法15条の3)。
5 宅地建物取引士になるために必要なこと
5.1 都道府県知事の行う試験に合格すること(宅建業法16条)
宅地建物取引士になるためには、まずは、試験に合格することが必要です。なお、平成26年改正法施行前に、「宅地建物取引主任者」であった人は、改正後の宅地建物取引士の試験に合格したものとみなされます(宅建業平成26年法81附則2)。
5.2 都道府県知事の登録を受けること(宅建業法18条)
宅地建物取引士として業務を行うためには、都道府県知事の登録を受けなければなりません。登録を受けるためには、以下の要件が必要とされています。
または、
② 国土交通大臣がその実務経験を有する者と同等以上の能力を有すると認められること
②の「その実務経験を有する者と同等以上の能力を有する」との認定は、国土交通大臣の登録を受けた事業者による実務講習等によってなされます(宅建業法18条1項、宅建業法施行規則13条の16)。
この実務講習は、平成27年4月27日現在、国土交通大臣の登録を受けた19の法人において実施されています。詳細は、国土交通省ホームページ
をご参照ください。
5.3 宅地建物取引士証の交付を受けること(宅建業法22条の2第1項)
宅地建物取引士として業務を行うには、都道府県知事に申請をして、宅地建物取引士証の交付を受けることが必要です(宅建業法22条の2第1項)。
交付を受けるためには、交付申請の6か月以内に行われる登録先の都道府県知事が指定する講習を受けなければなりません。ただし、試験合格から1年以内に交付申請をする場合には、この講習は免除されます(宅建業法22条の2第2項)。宅地建物取引士証の有効期限は5年間なので(宅建業法22条の2第3項)、5年ごとに改めて講習を受け直し、宅地建物取引士証の交付を受け直す必要があります。
6 宅地建物取引士の登録が受けられない場合
宅建業法18条に、欠格事由が定められており、これに該当する場合は、登録が受けられません。以下、主なものを挙げておきます。
② 成年被後見人又は被保佐人(2号)
③ 破産者で復権を得ていない者(3号)
④ 宅建取引業の免許を取り消され、取消しの日から5年を経過していない者(4号)
⑤ 法人が宅建取引業の免許の取消しを受け、その取消しの一定期間前に法人の役員であった者で、免許取消しの日から5年を経過していない場合(4号カッコ書き)
⑥ 禁固以上の刑、または、一定の罪により罰金刑に処せられ、その刑の執行を終わった日から5年を経過しない者(5号、5号の2)
⑦ 暴力団員等(5号の3)
⑧ 登録の消除処分を受け、その処分の日から5年を経過しないとき(6号)
⑨ 事務禁止処分を受け、禁止期間中に本人の申請により登録が抹消され、まだ禁止期間が満了しない者(8号)