宅地建物取引業保証協会の「苦情解決業務」と「弁済業務」

 ほとんどの宅建業者が、「宅地建物取引業保証協会」に加入していらっしゃると思いますが、その「宅地建物取引業保証協会」が行っている主な業務をご紹介していきます。
今回は、「苦情解決業務」と「弁済業務」です。
これらは、宅建業法64条の3第1項により、宅地建物取引業保証協会が行うべき業務として義務づけられているものです

1 苦情解決業務

 宅地建物取引業保証協会は、その所属する会員(宅地建物取引業者)が取り扱った宅地建物取引について、取引の相手方から苦情の申し出があった場合、その相談に応じ、申出人に必要な助言をしたり、事実を調査し、会員に説明を求める資料の提出を求めるなどして、当事者間の自主的な解決に向けて支援をするという業務を行っています(宅建業法64条の3第1項1号、宅建業法64条の5第1項)。これが「苦情解決業務」です。
 この苦情解決業務の対象となる範囲は、会員の取り扱った宅地建物取引業に係る取引に関する苦情です(宅建業法64条の3第1項1号)。つまり、宅地建物取引以外の取引などの苦情は対象となりませんし、宅地建物取引であっても、宅地建物取引業保証協会に所属する会員以外の事業者が行ったものは対象にはなりません。
宅地建物取引業保証協会は、この業務を行うにあたり、必要に応じて、当該会員に対して、文書もしくは口頭による説明や資料の提出を請求することができます。当該会員は、正当な理由がある場合でなければ、この請求を拒むことはできません(宅建業法64条の5第3項)。
 このように、宅地建物取引業保証協会は、当該苦情が解決されるよう尽力しますが、それでも当事者間での解決に至らず、苦情が撤回されない場合には、下記の弁済業務へと移管します。

2 弁済業務

2.1 業務の概要

 「弁済業務」とは、宅地建物取引業保証協会に所属する会員(宅地建物取引業者)との間で、宅地建物取引を行った者が、その「取引により生じた債権」を有する場合に、宅地建物取引業保証協会が、会員の代わりに弁済するという制度です。
取引の相手方は、会員に対して請求することはできますが、その会員には支払うべきお金がなく、支払いが受けられないということもあります。そういう場合に、宅地建物取引業保証協会が支払いをすることで、回収を確実にし、取引の相手方を保護することを目的としたものです。

2.2 弁済を受けるための要件(宅建業法64条の8第1項)

①取引の相手方が協会に加入していること
②宅地建物取引業に関しての取引であること
③その取引により生じた債権であること
④宅地建物取引業保証協会の認証を受けること(宅建業法64条の8第2項)

(1)①取引の相手方が協会に加入していること

 弁済業務は、宅地建物取引業保証協会が、その会員の行った取引について保証を行う制度なので、当然ながら、取引を行った宅建業者が、宅地建物取引業保証協会の会員であることが前提となります。

(2)②宅地建物取引業に関しての取引であること

 「宅地建物取引業」とは、宅建業法2条2号に定められていますが、次のいずれかの行為を、「業として行なう」場合です。

ア 宅地または建物の売買
イ 宅地または建物の交換
ウ 宅地または建物の売買・交換・賃貸の代理
エ 宅地または建物の売買・交換・賃貸の媒介

 ここには、「宅地または建物の賃貸借」は含まれていませんので、宅建業者が自己所有の物件を賃貸することは「宅地建物取引業」には該当しません。

 「業として行なう」というのは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅建業法2条2号所定の行為を行うことをいいます(最高裁判例昭和49年12月16日)。少し難しい言い回しですが、宅建業者が、有償で事業として行っている取引であれば、この要件は満たすものと考えられます。

(3)③その取引により生じた債権であること

 「その取引により生じた債権」とは、宅地建物取引業に関する取引を原因として発生した債権を意味し、宅建取引に関する契約やその解消及びこれらの不履行、取引の際の不法行為等によって発生した債権を指すものです。
 たとえば、宅地・建物の売買代金の請求、支払った売買代金の返還、宅建業者が業務処理に際して受け取った預り金等の返還、詐欺や横領などによる損害賠償、契約締結前の過失に基づく損害賠償、瑕疵担保責任による損害賠償、違約金の特約に基づく違約金の支払請求などがその対象となります。

(4)④宅地建物取引業保証協会の認証を受けること(64の8②)

 弁済を受けようとする人は、宅地建物取引業保証協会に認証の申出をして、認証してもらうことが必要になります。認証とは、その権利があることの証明というような意味です。
宅地建物取引業保証協会から認証が受けられなければ、弁済を受けることはできません。宅地建物取引業保証協会が認証しなかったことに不服がある場合には、裁判で、認証するよう求めることもできます。

2.3 弁済の流れ

 弁済を受けようとする者は、まず、宅地建物取引業保証協会に対して認証の申出を行う必要があります。申出を受けた宅地建物取引業保証協会は、申出人から提出された資料や、申出人や相手方の会員から聴取した内容を踏まえて、弁済を受けるべき債権が存在するかどうか、及び、その金額について審査します。
 審査の結果、認証がなされれば、申出人は認証がなされた金額に相当する供託金(宅地建物取引業保証協会が、法務局に供託した金銭)の還付を受けることができます。
なお、実務では、宅地建物取引業保証協会が申出人に代わって、法務局に供託金の還付請求を行い、還付を受けた金額を、申出人に返還するという扱いがなされています。

2.4 弁済を受けられる金額

弁済を受けられるのは、当該宅地建物取引業者が、宅地建物取引業保証協会の会員でなければ、供託すべきであった営業保証金の金額の範囲内に限られます(宅建業法64条の8第1項)。
具体的には、主たる事務所につき1000万円、その他の事務所につき500万円です(宅建業法25条2項、宅建業法施行令2条の4)。たとえば、主たる事務所のみを有してる事業者であれば1000万円、主たる事務所のほかに、支店1か所を有している事業者であれば、1500万円が上限になります。
この金額のうち、宅地建物取引業保証協会が弁済すべき額として、認証した金額の弁済を受けることができます。

2.5 弁済後の手続き

宅地建物取引業保証協会は、還付された額と同額の弁済業務保証金を、法務局に供託しなければなりません(宅建業法64条の8第3項)。そして、宅地建物取引業保証協会は、取引の当事者である会員に対し、法務局に供託した弁済業務保証金を、支払うよう通知します。
会員は通知を受けてから2週間以内に、その金額を支払わない場合、宅地建物取引業保証協会の会員としての地位を失ってしまいます(宅建業法64条の10第2項)。分割納付、期限の猶予や現金以外(手形、小切手、有価証券など)による納付も認められていません。
会員が、宅地建物取引業保証協会の会員資格を失った場合、1週間以内に営業保証金を供託しないと、宅地建物取引を営むことはできなくなってしまいます(宅建業法64条の15)。

2.6 宅建業者が他の宅建業者との取引で損害を被った場合にも弁済を受けられるか?

 宅建業法上、弁済を受けられる人に制限はありませんので、個人、法人問わず、あらゆる人が対象となります。
 では、業者も一般の消費者と同様の条件で弁済を受けられるのかいうと、そうではありません。

 上記のように、弁済を受けるためには宅地建物取引業保証協会の認証を受けなければなりませんが、認証の申出人が宅地建物取引業保証協会の会員である場合、その認証をするかどうかについて、宅地建物取引業保証協会の内部規約により、以下のような制限がなされています。消費者の保護を手厚くするため、会員からの請求を制限するために設けられたものです。

①会員の認証申出は、5か月間受理を留保し、その間に消費者から申し出があった場合はそちらを優先する。
②宅建業取引業者間の違約金及び仲介手数料については、認証の対象外とする。
③申出人が、専門業者として相当の注意を払った場合にのみ対象とする。

 このように、会員からの認証の申出は5か月間受理が留保された上、受理されたとしても、専門業者として「相当の注意を払った」と判断されなければ、認証を受けることはできません。
 このように、会員からの認証申出には、一定のハードルが設けられており、弁済を受けることはなかなか難しいということになります。

 なお、宅建業者であっても、宅地建物取引業保証協会の会員ではない業者からの申出であれば、上記の内部規定の適用はありませんので、通常どおり弁済を受けることは可能です。

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