借家・借地契約の契約期間満了と契約の更新
土地・建物の賃貸借契約の期間が満了した場合の契約の更新には、合意更新、自動更新、法定更新の3種類があります。以下、この3つについて解説します。
目次
1 合意更新
読んで字のごとく、当事者の合意により、賃貸借契約を更新するものです。お互いの合意により、更新後の条件を自由に定めることができます。
ただし、契約期間については、借家契約であれば1年以上、借地契約で借地借家法が適用されるものは、1回目の更新は20年以上、2回目以降の更新は10年以上、借地契約で借地法の適用があるものは、堅固建物について30年以上、非堅固建物について20年以上としなければならないという制限がありますので、ご注意ください。
契約期間についての詳しい説明は、「土地・建物の賃貸借契約(借地契約・借家契約)の契約期間」の記事をご覧ください。
2 自動更新
契約書に、「当事者が、期間満了の3ケ月前までに相手方に対して書面により更新しない旨の通知をしない限り、本契約は期間満了日の翌日より起算して同一条件にて更新されるものとし、以後同様とする。」というような条項が入っていることがあります。
この場合、賃貸人または賃借人のどちらかが、「期間満了の3ヶ月前」までに書面により更新しない旨を相手方に通知しない限り、契約が更新されることになります。
これは、いわゆる「自動更新」といわれるものです。契約満了時に、当事者間で何らの合意なく契約の更新がなされるという意味では、この後に説明する、いわゆる「法定更新」と似ています。もっとも、「自動更新」は、当事者間の合意である契約条項に基づく更新であることから、合意更新の一種であり、「法定更新」とは似て非なるものです。「法定更新」がなされた場合、その後の契約期間は、借地借家法や借地法にしたがって決まりますが、「自動更新」の場合は、当初の契約条項にどのように定められているかにより、その後の契約期間が決まります。通常は、従前の契約と同一期間とされることが大半だと思います。
このように、「自動更新」と「法定更新」では、更新後の契約期間に違いが出ますので、ご注意ください。
3 法定更新‐建物の賃貸借(借家契約)の場合‐
3.1 法定更新とは何か?
借家契約や借地契約の契約期間が満了し、「合意更新」や「自動更新」がなされない場合に、当然に契約が終了するかというと、そうではありません。以下に説明するような一定の条件を満たしていれば、お互いの合意がなくても法律にしたがって契約の更新がされるということになっています。これを「法定更新」といいます。
なお、定期借地(借地借家法22条)、一時使用目的の借地権(借地借家法25条)、定期借家(借地借家法38条)、一時使用目的の建物賃貸借(借地借家法40条)などには、法定更新の制度はありません。
3.2 借家契約における法定更新の要件
② 契約期間満了後、賃借人が建物の使用を継続している場合で、これに対して賃貸人が遅滞なく異議を述べない場合(借地借家法26条2項)
①更新拒絶の通知、または②賃貸人からの異議の通知、のどちらか一方でも欠けた場合、借家契約は、従前と同一の条件により更新されることになります。ただし、契約期間については、定めのないものとなります(借地借家法26条1項ただし書)。
3.3 ①更新拒絶の通知
更新拒絶の通知には、単純に更新をしない旨の通知のほか、条件を変更しなければ更新をしない旨の通知も含まれます。この場合、変更される条件が具体的に示されていなければなりません。また、契約解除を理由とする建物明渡請求訴訟の提起も更新拒絶の通知と認められます。
賃貸人側からの更新拒絶の通知には、正当事由が必要とされており(借地借家法28条。「正当事由」の意味は次回の記事で、詳しく説明します。)、正当事由がない場合には、法定更新の効果は妨げられません。
3.4 ②賃貸人からの異議の通知
「異議」とは、賃借人の建物の使用継続に反対する意思の表明です。通常は、建物の使用をやめ、早急に建物から出ていくよう求めるというような通知をすることになります。
法律上、書面で行うことは求められておらず、口頭でも構いませんが、異議を述べたことを証拠として残しておくために、書面で行うべきです。賃貸人の承諾を得て、適法に転貸借がなされている場合の転借人の使用の継続も、賃借人の使用の継続とみなされます(借地借家法26条3項)ので、ご注意ください。
この異議は、「遅滞なく」行うことが必要ですが、「遅滞なく」の基準は、個別の判断になります。期間満了後、66日目になされた建物明渡請求の訴訟提起を、「遅滞なく」なされた異議であると認めた判例があります。訴訟提起までの準備にある程度の時間がかかることが考慮されたものです。
なお、期間満了後に、賃貸人が賃借人から賃料を受け取り、家賃受取証を発行したケースで、その後異議を述べても、遅滞のない異議とは認められないとした判例があります。家賃の受け取りが、建物の使用継続に対する承諾と捉えられたものです。これはテクニカルな方法ですが、期間満了後に賃借人が家賃を支払ってきた場合、建物の使用継続を認めないことを明示するとともに、賃料としてではなく、「賃料相当損害金」として家賃相当額を受け取るということを書面で明示しておきましょう。契約終了後、賃貸人は、家賃を受け取る権利はありませんが、賃借人が建物を使用している以上、その使用分の損害金を受け取る権利があります。その金額は従前の賃料と同額とされることがほとんどです。この「賃料相当損害金」を受け取ることは、建物の使用継続に対する承諾とはみなされません。
ですので、建物の使用継続を認めないこととあわせて、「賃料相当損害金」として受け取るということを書面で明示しておけば、賃貸人が建物の使用継続を承諾しているとは言えなくなります。
3.5 まとめ
結局、期間満了時に、賃借人が契約の終了に同意しない場合、賃貸人側から契約を終了させるには、①更新拒絶の通知、②賃貸人からの異議の通知を行った上、①について、正当事由があることが必要になります。賃貸人の一方的な意思で契約を終了させられる場合は、相当限定されています。
4 法定更新‐土地の賃貸借(借地契約)の場合‐
4.1 借地契約における法定更新の要件
契約の更新に関し、平成4年7月31日以前に結ばれた借地契約には借家法が、平成4年8月1日以降に結ばれた借地契約には借地借家法が適用されることになります(借地借家法附則6条)。もっとも、借地法と借地借家法では、法定更新に関する内容は同じです。
以下の要件を満たす場合に、法定更新がなされることになります。
または
② 借地上に建物が存在し、期間満了後も賃借人が土地の使用を継続しているにもかかわらず、賃貸人が遅滞なく異議を述べない場合(借地借家法5条2項。借地法6条)
4.2 ①更新請求について
更新請求は、原則として、土地上に建物がある場合に限り行うことができます。建物がない場合、更新請求をしても、基本的には、法定更新の効果は生じません。もっとも、賃貸人の妨害により、建物滅失後、再築ができなかった場合には、建物がなくても更新請求をすることができるとした判例があります。賃貸人のせいで建物が建てられなかった場合にまで更新請求を認めないのは、不公平だという考え方に基づくものです。
更新請求の時期について、法律上の定めはありませんが、契約期間満了時に近い時期になされる必要があります(契約期間満了の前後を問いません。)。
更新請求は、賃借人が、賃貸人からの期間満了を理由とする土地明渡しの請求を拒絶するという方法によって行われるのが通常です。明渡し拒絶の意思表示の中には、更新請求の意思表示が含まれており、あらためて更新請求をする必要はないと考えられます。
賃借人が更新請求をしたのに対し、賃貸人が「遅滞なく異議」を述べた場合には、法定更新の効果は生じません。
「遅滞なく」というのは、個別の判断になりますが、更新請求を受けてから、更新をすべきかどうかを判断するために必要な期間が経過すれば、遅滞になると考えられます。賃貸人側で、更新したくないということが決まっているのであれば、すぐに相手に伝えましょう。
また、更新請求があった後に、何の留保もなく地代を受け取ると、更新請求に異議がないものとみなされてしまいますので、更新に異議があることを述べるとともに、地代ではなく、「賃料相当損害金」として受けとることを明示しておきましょう。
なお、賃貸人の異議には正当事由が必要とされており、これがなければ、異議を述べても法定更新の効果は妨げられません(借地借家法6条。借地法4条1項ただし書)。
4.3 ②土地の使用継続について
①の更新請求がなされなかったとしても、土地上に建物があり、期間満了後も賃借人が土地の使用を継続している場合には、法定更新がなされることになります。土地が転貸されている場合には、転借人の土地使用が、賃借人の使用とみなされます(借地借家法5条3項)。
これに対して、賃貸人が遅滞なく異議を述べ、その異議に正当事由がある場合に、法定更新の効果が生じないのは、①更新請求の場合と同様です。
4.4 まとめ
借地契約において、賃貸人側が、法定更新がなされないようにするためには、①賃借人から更新請求がなされた場合、および、②契約期間満了後も賃借人が土地の使用を続けている場合は、すぐに書面で、契約の更新や土地の使用継続を認めない(そして、直ちに立ち退くように求める)という通知をしておくことが必要です。
また、何の留保もなく、地代を受け取ると、契約の更新や土地の使用継続を認めたと捉えられかねないので、受け取るのであれば、「賃料相当損害金」として受け取ることを明示しておきましょう。