借地借家契約の更新拒絶・解約の申入れと正当事由

 借地契約について、賃貸人が期間満了時に契約更新を拒絶する場合や、借家契約について、賃貸人が期間満了時に契約更新を拒絶する場合、解約の申入れをする場合には、賃貸人が賃借人に土地や建物からの立ち退きを求めることについて「正当事由」が必要とされています。「正当事由」がなければ、賃貸人がした更新拒絶や、解約申入れの効果は生じません。今回は、この「正当事由」について解説します。

1 借地契約の更新を拒絶するための「正当事由」

1.1 「正当事由」があるかどうかの考慮要素(総論)

 借地借家法6条は、賃貸人が借地契約において契約の更新を拒絶する場合には、「正当事由」が必要であるとしています。まずは条文を見てみましょう。

(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条  前条の異議は、借地権設定者及び借地権者・・・が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

 この「前条の異議」というのは、賃借人の契約の更新請求(借地借家法5条1項)、および賃借人の土地の使用継続による法定更新(借地借家法5条2項)に対する異議のことです。賃貸人が、契約の更新を拒絶するための意思表示と考えてもらえばよいでしょう。
 更新拒絶の意思表示をするためには、「正当の事由」があることが必要とされています。では、この「正当の事由」があるかどうかはどのように判断するかというと、条文では、以下の要素を総合して判断することとされています。

①借地権設定者(賃貸人)が土地の使用を必要とする事情
②借地権者(賃借人)が土地の使用を必要とする事情
③借地に関する従前の経過
④土地の利用状況
⑤借地権設定者(賃貸人)が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者(賃借人)に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出(いわゆる「立退料の支払い」のことです。)

1.2 考慮要素の具体的な内容

1.2.1 ①借地権設定者(賃貸人)が土地の使用を必要とする事情

 賃貸人が土地上に建物を建てて住居として使用する、ビルを建てて自分の事業のために使用する、ビルを建てて収益を上げる、再開発により建物の高層化を図るなどが、賃貸人が土地の使用を必要とする事情になります。また、賃貸人自身ではなく、賃貸人の家族の事情という場合も考えられます。

1.2.2 ②借地権者(賃借人)が土地の使用を必要とする事情

 賃借人が、自分や家族が住むために土地上の建物を利用する必要がある、土地上の建物を事業のために利用する必要があるなどが挙げられます。なお、土地が転貸借されている場合には、転借人の事情も考慮されることになります(借地借家法6条かっこ書)。

1.2.3 ③借地に関する従前の経過

 賃貸借成立の前後から契約期間の満了までの事情です。具体的には、以下のような事情が考慮されます。
権利金、更新料などが支払われたかどうか、借地権が設定されてから期間満了までの期間の長さ、賃料額の相当性、賃料の滞納があったかどうか、用法義務違反があったかどうか、賃貸人への嫌がらせの有無などの不信行為があったかどうかなどです。
 権利金の支払いがなかったことは正当事由を否定する要素、支払いがあったことは肯定する要素となります。賃貸借の期間が長いことは、正当事由を否定する要素として考慮されます。
 また、賃料の滞納があったことや、無断での増改築があったことは、正当事由を肯定する要素となります。

1.2.4 ④土地の利用状況

 土地上の建物の存否、その種類や用途、構造・規模、建物の築年数や老朽化の度合い、借地権者の利用状況などが考慮要素となります。裁判例には、土地上の建物が老朽化して、建替えの必要があり、賃借人自身も建替えを意図していたということが、正当事由を肯定する要素とされたものがあります。

1.2.5 ⑤立退料の支払い

 立退料を支払うことが、正当事由を肯定する要素となります。立退料さえ支払えば、正当事由が認められる(立ち退かせることができる。)と考えていらっしゃる地主さんも多いですが、立退料はあくまで正当事由があることを補強する役割があるにすぎません。
 以下の「1.3 正当事由があるかどうかの判断の枠組み」でも書いていますが、正当事由における中心的な要素は、①借地権設定者(賃貸人)が土地の使用を必要とする事情と②借地権者(賃借人)が土地の使用を必要とする事情です。賃貸人が土地を使用する必要が全くないのであれば、いくら高額な立退料を支払おうと、正当事由は認められません。
 ①と②、その他の要素で判断がつかないという場合に、立退きを正当化する要素として、立退料の支払いが補充的に考慮されるにすぎないと考えていただければと思います。

1.3 正当事由があるかどうかの判断の枠組み

 裁判例の判断枠組みは、一定でない部分はありますが、基本的には、まず、①賃貸人が土地の使用を必要とする事情と、②賃借人が土地の使用を必要とする事情を比較して、相対的に必要性が高いのはどちらかを判断するという方法によります。
 この比較のみでは判断できない場合に、③借地に関する従前の経過、④土地の利用状況、⑤立退料の支払いという補充的な要素を加えて、明渡しをさせることが妥当といえるかどうかが判断されます。
 その意味では、①、②が主たる判断要素、③〜⑤が補充的な判断要素ということができます。たとえば、賃借人が借地上の建物を全く使用しておらず、今後も使用する予定がないという場合(②がなし)、①賃貸人の使用の必要性がそれほど高くないという場合でも、⑤立退料の支払いなしで、正当事由が認められたケースもあります。これは、①と②の比較のみで、判断をしたものといえます。
 逆に、賃貸人が土地を使用する必要が全くなく(①なし)、賃借人が土地上の建物に居住していたり、事業のために使用しているような場合には(②あり)、いくら高額な立退料を提示しても、正当事由は認められないでしょう。

1.4 まとめ

 賃貸人側としては、契約期間が満了した場合に、更新を拒絶するためには、まずは、自己やその家族が土地を使用する必要性や、ビル等を建てて収益を図る、自己の事業のために利用するなど、土地利用の必要性を裏付ける事情を、具体的に主張する必要があります。ただ単に、賃借人が気にくわないので出て行ってほしいというだけでは、正当事由は認められないと考えていただければと思います。

2 借家契約の更新拒絶、または解約の申入れをするための「正当事由」

 借地契約と同様、借家契約でも、期間満了による更新拒絶をする場合や、解約の申入れをする場合には、「正当事由」が必要とされています(借地借家法28条)。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条  建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 正当事由の考慮要素としては、以下のものが挙げられています。

①建物の賃貸人が建物の使用を必要とする事情
②建物の賃借人が建物の使用を必要とする事情
③建物の賃貸借に関する従前の経過
④建物の利用状況
⑤建物の現況
⑥建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出(いわゆる立退料のことです。)

 ①〜④・⑥は、借地契約の更新拒絶(借地借家法6条)の場合と同様です。
 また、⑤建物の現況というのは、借地契約の場合には明示されてはいませんが、借地契約の場合にも、建物の老朽化の程度を考慮して、正当事由を認めた裁判例もあります。借地契約の場合にも、建物の現況は考慮されることになるといってよいでしょう。

3 まとめ

 
 結局、借地契約の場合も、借家契約も場合も、正当事由の有無の判断において、考慮される要素や、その判断枠組みはさほど変わらないといえます。
 ですので、「1 借地契約の更新を拒絶するための正当事由」の部分を参考にしていただければと思います。

関連記事

不動産特化型リーガルパートナー
賃料滞納による建物明渡トータルプラン

運営者

ページ上部へ戻る